企業の知識を未来に残す──ヒューマックの現場から

企業OS設計・伴走DXの実践記録。ICTサロン桑名の活動報告。株式会社ヒューマック│代表 伊藤晴通│三重県桑名市

AI、どう活用するんですか?

よく質問されます。

社長仲間や、商工会の集まりに行くと、必ずと言っていいほど聞かれます。

「HARUさん、AIってうちみたいな小さい会社でも使えるんですか?」

正直に言います。私もずっと、同じことで悩んでいました。

ChatGPTを開いてみる。すごい。けど、じゃあ明日の朝、自分の会社で何に使えばいいのか、よく分からない。試しに請求書の文面を作らせてみる。便利。でも、それだけ。一週間後には開かなくなっている。

社員10人以下の会社で、AIを「毎日の仕事」に落とし込むのは、実はかなり難しいんです。理由はふたつあります。

ひとつは、AIに何かを相談しようとすると、毎回ゼロから状況を説明しないといけないこと。「先月のあの案件で、あの顧客に、こういう事情があって……」と、背景(コンテキスト)を集めて打ち込むだけで、もう疲れてしまう。

もうひとつは、せっかくAIと話して良い結論が出ても、それを置いておく場所が会社の中に無いこと。社長のチャット履歴の奥に沈んで、一週間後には自分でも見つけられなくなる。

結局、毎回ゼロから説明して、毎回使い捨てる。 これでは続かなくて当然です。

集めるのも、残すのも、仕事の側でやってほしい

たとえば、うちの会社でよくある一日。

  • 朝、取引先から見積依頼のメールが届く
  • 昼、別件で仕入先から伝票が届く
  • 夕方、お客さんから「前に話してた件、どうなった?」と電話

この3つ、全部バラバラのところに記録されています。 メール、紙、LINE、社長の頭の中。

ここにAIを入れても、AIは何も見えません。見えないものは手伝えません。だから「便利そうだけど、うちでは使えない」になる。

逆に言うと、この“バラバラ”を一箇所に集める場所さえあれば、AIは一気に戦力になります。「先週の見積、あの時なんでこの値段にしたんだっけ?」「この仕入先、去年より高くなってない?」——こういう、今まで社長の記憶頼みだった問いに、会社そのものが答えてくれるようになる。

私たちはこの“置き場所”を、弊社で開発中の 「企業OS(Corporate OS)」 という形で作っています。パソコンにWindowsやmacOSという土台があるように、会社にも、判断や記録を載せる土台があっていい。そういう発想のものです。難しい話ではありません。社員一人ひとりの頭の中にしか無かったものを、会社そのものの資産に置き換えていく場所、と思ってもらえれば十分です。

うちで実際にやっていること

私はいま、HUMACの全部の仕事——請求書、仕入れ、顧客とのやり取り、進行中のプロジェクト——を、この企業OSにまとめて放り込むようにしています。紙でもPDFでも音声メモでも、とにかく全部。

そうすると面白いことが起きます。

たとえば先日、ある顧客から久しぶりに連絡がありました。以前であれば過去のメールとフォルダを30分ほど掘り返していたところが、「この顧客と、過去にどんな話をどこまで進めたか」を数秒で引き出せる。 自分の記憶よりも、企業OSの方が正確に覚えてくれている感覚です。

大げさな話じゃありません。社長が毎日やっている“思い出す作業”を、企業OSとAIに肩代わりしてもらっているだけです。でも、このひとつが変わるだけで、一日の疲れ方がまるで違います。

社長が“思い出す”仕事から降りる

私はこれを、特別なことだとは思っていません。社長が毎日やっている 「えっと、あれはどうなったっけ」 という思い出す仕事を、企業OSの側に預けているだけです。

ただ、この「預け先」があるかないかで、一日の終わりの疲れ方がまるで違います。AIが賢くなったから楽になったのではなく、相談する前の準備と、相談した後の片付けを、企業OSがやってくれるようになったから楽になった。

AI活用の話は、たぶんここから始まります。新しい道具を探す前に、自分の会社の中に、根拠と結論の置き場所があるかを一度のぞいてみてください。無ければ、作ればいいだけです。